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西の壁(ジークフリート線)
Westwall

ドイツの西端の国境近くに1938年から1940年までの間にトート機関により設けられた防衛線が西の壁(Westwall)。
ジークフリード線とも言われる。
フランスとの国境線、ルクセンブルグとの国境線、ベルギーとの国境線をカバーし、オランダとの国境線も南部でカバーする。長さだけで言えばフランスのマジノ線よりもはるかに長い。
アーヘンの周囲は2重の防衛線になっている。
主力はトーチカ群と対戦車トラップで、マジノ線の様な大規模地下施設を有する要塞は作られなかった(西の壁も、一部地下施設はある)。
結局大戦初期には使われず、1944年に連合軍がノルマンディに上陸してからは本土防衛の必要性が現実となり、慌てて再整備した。

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西の壁といえば何と言っても竜の歯(英語:ドラゴンティースDragon Teeth ドイツ語:kampfwagenhindernis)が有名。
特にドイツ・ベルギー国境近辺のドイツ側には多数残っている。

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上の写真と道を挟んで反対方向の眺め。
50 43 22 N 6 05 24 E

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中にはちゃんと鉄筋が入っている。

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ここは長大な長さの竜の歯が牧草地を貫いており、農作業車が通れるよう壊した箇所以外はそのまま残っている。
50 41 48 N 6 09 23 E

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オランダ国境近くの竜の歯。向かって右側から敵の侵入を想定している。
歯は独立しておらず、半地中の桁組と一体化しているのが判る。
50 50 38 N 6 04 26 E
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こちらもオランダ国境近く。
50 49 48 N 6 03 01 E

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竜の歯の帯が90度曲がる所。
奥に伸びている竜の歯の方が背が高く、角がシャープ。
50 48 01 N 60 00 52 E
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農家の軒先に伸びている竜の歯。かなり盛土で隠れている。
50 48 02 N 6 00 58 E

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珍しい、川をまたぐ竜の歯。
この近辺で1944年9月13日、米軍が始めて西の壁を突破した。
50 39 28 N 6 12 18 E

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雪原の中の竜の歯。背の低い方は雪に覆われているが、背の高い方は側面に雪が残らない。傾斜角度の微妙な差だろうか?ベルギー国境近くの町、ホレラート近郊にて12月の撮影。
1944年12月16日、ドイツ軍第12SS装甲師団「ヒトラーユーゲント」はここを進撃路A(Rollbahn A)のスタートとして、ベルギー側に居るアメリカ陸軍第395歩兵連隊に攻撃をしかけた。
50 27 15 N 6 22 29 E

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パンツァーマウアー(対戦車障壁) 戦車が乗り越えられないよう3m程度の高さのコンクリートの壁が設けられた。
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こちらもパンツァーマウアー。事前に判っていないと単に壁か?と思って見過ごしてしまいそう。
50 46 55 N 6 00 58 E

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ロードブロックがあったところ。
必要に応じて道を封鎖したり検問所を設けたり出来た。
50 45 45 N 6 02 22E

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開閉式のゲートのヒンジが残っている。
右の竜の歯には、障害棒を挿す四角い穴があいている。
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トーチカ物件その1。
ヒュルトゲンの森の中のトーチカ 139/40
外部に対してだけでなく、入口を入った所でも機銃がありセキュリティは万全。
以下3つの物件の中では一番大通りに近くて交通至便。
50 38 50 N 6 20 15 E

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トーチカ物件その2。
ヒュルトゲンの森の中のトーチカ 135
外壁に弾痕がある、木が絡まってきている、殆ど埋もれている、床が冠水している、ハイキング(?)コースからちょっと外れているなど訳あり物件。
50 39 03 N 6 20 19 E

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トーチカ物件その3。
ヒュルトゲンの森の中のトーチカ 132
森の奥で大通りからも離れていてとても静か。屋根の上の木がポイント。
50 39 08 N 6 20 12 E

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ルクセンブルグとドイツとの国境である橋の正面に配置されているトーチカ。
初期に作られたもので2-4人用の「Cタイプ」と言われる小型のもの。
カモフラージュの為石で全面を覆い、銃眼と一部露出しているコンクリート部を見ない限りはトーチカがあるとは判らない。
入口は後方にあると思われるが現在は埋もれている模様。
49 52 38 N 6 17 06 E

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こちらはより大型のBタイプ。上で紹介したブンカーから少し離れた所にある。
49 52 56 N 6 16 49 E

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Bタイプの物件見取り図。
入口は2箇所で、不法に侵入した敵には各々2箇所づつから機銃の十字砲火を浴びせられるという万全なセキュリティ。
居住部屋は2箇所ある。右下が戦闘室。

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物件図面向かって右の入口。2箇所の機銃口がある。

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物件見取り図右下の戦闘室内部。壁の注意書きはオリジナルで、明かりを点けるときはシャッターを閉めるという指示。

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壁の注意書き 「Achtung ! Feind Hort Mit」は「注意!敵も聞いている」すなわち壁に耳ありという意味。

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こちらもルクセンブルグ国境沿い。
トーチカがあったらしいのだが、爆破により粉々になった残骸しか残っていない。
まあ負の遺産だし、まだまだ他に沢山残ってるし、しょうがないか。
49 52 53 N 6 16 44 E


ワンポイントアドバイス:
もしもジークフリード線を見に行きたいという奇特な方には、晩秋に訪問する事をお勧めします。
春夏秋は草木が茂って施設の多くが隠れてしまいます(これはドイツに限らず大抵の要塞トーチカ探訪に共通することですが)。
真冬は、場所によっては(特にルクセンブルグ国境付近)雪が降ります。



ジークフリード線がモロに登場するのは映画「突撃隊」(1962年)、原題は Hell is for Heros.
スティーブマックイーンがいつになく無愛想。コメディ路線の乗りの会話もあるが、白黒映像と相まって、全体的に重く暗い映画だ。
兵のワッペンから第95歩兵師団所属であることが判る。
白黒なので判りにくいが地形景観や植生がドイツやフランス東部とは似ておらず、後述のコンバット同様、カリフォルニアの丘で撮影しているのだろう。

もう一つ、「プライベートソルジャー」(1998年)もジークフリード線近辺の、ヒュルトゲンの森の戦いが舞台なので、ドラゴンティースが登場する。ちょっと歯が一列に揃いすぎている嫌いはあるが。

ジークフリード線ではないが、ドイツ軍のトーチカ攻略を描いた作品でTVドラマの「コンバット 丘は血に染まった」(1966年)が印象深い。
コンバットはTVシリーズで、計5シーズン放映されたが、内、2回は前・後編に分けた長い作品を放送している。
その内の1つが「丘は血に染まった」である。(もう一つは「停車場の3日間」)
原題のHills are For Heroes はモロに突撃隊の原題Hell is for Herosのオマージュ。
取るべき丘が左右2箇所あるのでHillsと複数形になっている。

コンバットは結局最初から最後までフランスが舞台になっており、最初だけノルマンディ上陸作戦がテーマになっているものの、以降サザエさん/こち亀式に時間が止まり、ベルギー、ルクセンブルグ、ドイツ等には入っていない(イギリス軍顔負けの進軍の遅さ...)。

「丘は血に染まった」も、前後の話からフランスが舞台と考えるのが自然(ただし「丘は...」には、フランス人の住民やレジスタンスは登場せず)だが、該当するようなトーチカはフランスには無いので(ノルマンディ海岸沿いにはあるがこの話の舞台ではない)勝手にジークフリード線だと思っている。
コンバット全体的に言える事だが、屋外撮影シーンは枯草の丘、ユーカリの木、開けた大地など、明らかにアメリカ・カリフォルニアの景観で、フランスはもとよりベルギーやドイツの戦場とは似ても似つかない風景の中で戦闘シーンが展開する。
「丘は血に染まった」のトーチカも、やはりどうみてもカリフォルニアの丘としか思われない禿山の上に立ちはだかっている。
作品は白黒だからまだいいが、もしもカラーだったら、恐らく黄土色の枯草ばかりが目に付くことだろう。
(実際、カラーになった最終シーズンには「緑の場所を探すのに苦労した」というオーディオコメンタリーがある)

このTVドラマ、最初に見たのは高校生の頃(もちろん再放送)だった。
この時は戦争映画全般に共通する「やる気」にすっかりはまり込み、カービー、リトルジョン、ケリー(ケイジ)ら兵卒に混じって自分も「トーチカを黙らせて丘を取るぞ」と完全に兵士と同化して見入っていた。
前編、後編に分けて作られた番組だったが、確か民放の映画放送時間に前後編を繋げて放映していたと思う。
普段はサンダース(発音はソーンダースに近い)軍曹として主演が多いヴィックモローだが、丘は血に染まったでは早々と負傷して出番が少なくなっている(監督業に専念する為と思われる)。
見る人を引き込む演出、兵士の目で見たカメラワークなど、監督としてもかなりの才能の人だ、と生意気にも思っていた。
それ以来、長らく見ていなかったのだが、転勤に伴い電車に乗る時間が長くなった(とは言っても片道30分)ので、これを機に英語の勉強も兼ねて、とアメリカのノーカット版を購入(単に日本語版よりも安かったから、ともいう)。
30年以上ぶりに鑑賞したコンバット、見た記憶のあるエピソードもあるが、完全に忘れていたもの(あるいは見ていなかったのか?)も多い。
ただ、ビッグなゲストスター(ロバートデュバル、JDキャノン、ジェームズコバーン等)が出て来た時の話や、印象深い話は結構隅々まで覚えていた。
順番に見て行きやっと第4シーズン突入。いよいよ待ちに待った「丘は血に染まった」を身構えて見た。
これは印象に残っている大作で、統計屋とかシュミットとか印象深いゲストも含め、やはり殆どのストーリーを覚えており、それでも、もう一度見るとやはりすばらしい。実に脚本も撮影も良く出来ている。
しかし、今回大きく変わっていたことがあった。30年前と今とでは、この作品への感情移入の仕方が全く違っていた。
兵士と共に丘を攻めていた30年前、それに比べ今回はヘンリー(発音はハンレィに近い)少尉と心が共にあった。
こちらの言い分を聞かないでただ攻めろ、何とかしろという上官 : 判ります!
とにかく文句を言いたいだけ言う部下 : そういうのいます!
ついつい自分も戦闘に参加してしまいそうになり部下に止められる : あります!
そう、今になって判ったのだが、丘は血に染まった、はヘンリー少尉という中間管理職の立場で見た戦争ドラマなのである。
中間管理職はいかに上の意向を配下の人を使って実現させていくかが仕事。
まさしくヘンリー少尉は中間管理職としての立場の罠にはまり、そして見事にそこから抜け出し目標を達成させる。
そこに同じく中間管理職の自分は同化して見ていたのだ。
30年以上の時を経て、この見方の変化はちょっとした感激であった。



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