コベントリー爆撃とエニグマ
Coventry Blitz / der Operation Mondscheinsonate

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爆撃により破壊されたコベントリー聖ミカエル大聖堂。
52 24 29 N 1 30 27 W
14世紀初頭〜15世紀初頭にかけて作られた。
空襲後は瓦礫撤去したものの廃墟のまま残し、隣に新しい現代の教会を新たに作った。

コベントリーは英国イングランドの工業都市。バトルオブブリテン最中の1940年8-10月の間に17回の小規模爆撃を受けている。
1940年11月14日夜、パスファインダーとして無線ビーコンで誘導されたドイツ軍のHe−111が、マーカーとなるフレアを投下した。
続く約500機のメインとなる爆撃機が爆弾と焼夷弾を投下。第二次世界大戦中英国が受けた、最も集中的な一都市への爆撃だった。
空襲は翌日まで11時間続き、死傷者1200人を出した。
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大聖堂の尖塔は無事に残った。教会本体の屋根は20世紀になってから鉄材で補強されており、この鉄材が爆撃の熱で曲がり屋根が落ちた(補強が仇になった)。
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聖人Huyshe Wolcott Yeatman-Biggsの像。眠ってます。(墓の蓋?)
大聖堂内の装飾展示品の中で唯一殆ど無傷だったもの。
逆卍マークはドイツ軍による空襲とは関係ないので念のため。

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和解の像。広島にも同じ像がある(らしい。見るの忘れた...)。
広島とコベントリーは姉妹都市ではないので念のため。
コベントリーは戦争つながりでスターリングラード(現ボルゴグラード)、ドレスデンと姉妹都市になっている。
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フォード病院。見事な木組み様式の家。空襲で破壊され、その後オリジナルの木材を使って修復再建された。
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空襲が明けた翌日、1940年11月16日付のデイリーヘラルド紙。
記者は第一次世界大戦中フランスで砲撃を受け廃墟となった町を見ており、まるでそっくりだと言っている。
ドイツ空軍の爆撃を受ける一方で、英空軍がベルリンを空襲していることもさりげなくアピール。



さて、コベントリー空襲と切っても切り離せない関係として長らく伝えられているのが、エニグマの暗号解読。
チャーチルは、コベントリーがドイツ軍の大規模空襲目標であるという情報をエニグマ解読により掴んでいたものの、
エニグマが解読出来ることを敵に察知されたくない。
将来より大きな戦果を上げられる時の為に秘密にしておきたい。
よって、コベントリーに避難命令を出したり、防空を集中させるようなことをしなかった、というもの。
単なる都市伝説ではなく、書籍にも登場するが、実際には空襲があることは判ったものの対象の都市が特定できなかったというのが真相らしい。

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エニグマ暗号機。ハノーファーの航空博物館にて。

キーボードは、現代のものとは配列が微妙に異なる。
YとZが入れ替わっているのは現代のドイツのキーボードも同じだが、更にLが下にずれている、Pが左下に動いている点が異なる。
スペースキーが無い、数字が無い、ウムラウトやエスツェット(β)が無いなど多少の不便は我慢。
スペースはX(普通のドイツ語文章では殆ど登場しない)で代用することがあったらしい。
数字は最上列の並びQWERTZUIOを1〜9に割当(Pはゼロ)することもあったが、
数字をそのまま綴る(例えば1はeins)事が多かった(暗号が破られる理由の一つ)。
このキーボードで入力した文字が、導電する3個の歯車(スクランブラーホイール)の組合せ、手前のプラグボード配線の組合せにより決まる回路構成(これがスクランブルキーになる)により、特定の出力ランプを光らせる。
一文字打つごとにロータが回転するのでスクランブルキーは一文字ごとに変わる。
1台の機械で暗号作成と、暗号解読が可能。
オプションとして、
・プリンター
作成した送信メッセージの暗号を印刷して無線送信者に渡す、或いは、解読した受信メッセージを印刷する。ランプの表示を見る必要が無い。
・外付けランプ
暗号の作成、解読はランプにて表示されるので、キーボードを叩く人とランプ表示を見て記録する人が必要。1つの機械を二人で覗き込むと狭いので、外付けランプが付けられる。
・プラグボードスイッチ
Uhr(時計)と呼ばれる。プラグにコネクタをいちいち差し込むのではなく、Uhrのダイヤル選択をするとプラグボード配線と同じ回路が選択できるもの。
がある。
まあオプションは、世の中の常で、あれば便利、無くても何とかなりそうです。
Klappe Schlissenは「蓋を閉めましょう」の意味。手前の蓋は閉めて使用する。
電源は電池、外部電源双方使用可能。

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同じくエニグマ暗号機。
最初のものとは細部が異なっている。
共に歯車が3つのタイプなので相互に暗号のやり取りは出来るはず。
上蓋の裏側にプラグ付ケーブルが2本あるが、これはプラグボード配線用の予備ケーブル。
その上の黒い長方形の板はランプのカバーで、使用時には蓋の裏に格納しておく(現代日本で言う所の4Sの徹底)。
また、上蓋裏側の、写真一番上に並んでいる丸い点は、ランプが切れたときの交換用予備電球。

オーストラリア戦争記念館にて。

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民間型のエニグマと思われる。
ロータ4つ、プラグボードなし。出力ランプにはカバーがされている。数字の割当がキーとランプに刻印されている。箱が無い。
右上のセレクターは左側から順にバッテリー駆動ランプ明、暗、電源切、外部電源。
ドレスデンの軍事歴史博物館にて。

エニグマの暗号解読は第二次世界大戦前の1933-1938年にかけて、ポーランドで少し成功したが、歯車とプラグボードの組合せが増えたり頻繁に変わるので実用化できなかった。

結局ポーランドはドイツに占領され、研究は英国に引き継いだ。
ブレッチリー・パークにある英国政府の暗号学校(研究所)では、1940年にエニグマの暗号解読に成功、ドイツ軍のノルウェー侵攻は事前に情報を得ることが出来たが、戦果として効果が現れるのその先。
大西洋ではU-ボートの動きを察知し通商破壊の被害を抑えることが出来た。
北アフリカではドイツの補給線を攻撃し、軍団の動きを察知するのに役立った。
1942年2月にロータを4つに増やした改良型エニグマ暗号機がドイツ海軍で導入されたが、1942年末にはこれも英、米で解読できるようになった。

暗号解読にはBombeと名づけられたコンピュータが使われた。
エニグマの暗号が解読された理由として、
・現物(民間用に市販されていた)、特許、取扱説明書などを入手して構造が判っていた
・同じアルファベットには暗号化されない(S→Sには絶対にならない回路構成)
・通信文のなかで定形語が頻繁に使われた。
ANX○○(○○へ。anは〜への意味、Xはスペースの代わり)
FORT(Fortsetzungの略。前回送信メッセージの続きの場合冒頭に入れる)
など。
潜水艦はメッセージを短縮する略号を頻繁に使用したが、それらの意味は米軍が鹵獲した潜水艦U-505などから回収されたコードブックに記載されており、解読効率アップにつながった。
・同じメッセージがエニグマと、それ以外の暗号で通信されることがある。暗号が解読できればエニグマのロータ、スイッチボード解析の手助けになる
など。
数学者チューリングとウェルチマンは、メッセージの定形語に注目して解読用コンピュータBombeを設計した。
(解読用コンピュータはポーランドも作っていた。英国のものとは原理構造が異なる。)
定形語を探して、定形語が含まれないキーの組合せを除外して高速化するのが英国独自の解読功績。


ハリウッド映画、U-571はエニグマ暗号機をドイツの潜水艦丸ごと奪うというフィクション映画。
安直なアメリカ製娯楽映画の匂いプンプン。演技、監督、脚本皆ダメな感じ。
大抵は面白い潜水艦映画というジャンルの中では、外れ、な映画。
そりゃエニグマ本体、運用表(毎日変わるギアの組合せ、プラグボード配線の組合せがが書いてある。これ重要。)があれば解読できますわな(運用表の有効期限が過ぎたらダメだけど)。
史実は、米軍の機械と運用表の強奪ではなく、英国研究所がエニグマ暗号の解読に成功している。
英軍も、撃沈したU-110、U-559からエニグマ本体と運用表の回収に成功している。
この映画見てイギリス人皆怒れ!

英米合作映画で、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」は、実在した数学者チューリングを中心に話が展開する。
映画化の為の嘘や誇張があるのはいつもの事ながら仕方ない。チューリングはもう少し社交的だったとか、ソ連の恐喝は無かったとか、出来るだけ短くしたい通信文でハイルヒットラーとは毎回言わないとか。
英国では戦後もしばらくは同性愛が違法だった、というのはこの映画で始めて知った。
エルトンジョンとかダメじゃん。
実は、私が最近まで住んでいたシンガポールは同性愛が未だに違法。
その後タイに転勤になったら、職場にトランスジェンダーのスタッフ複数。
どうみても暗号解読できるような人たちではないのだが。
暗号解読とLGBTは関係ないと思われる、というのが私の結論。





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